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 新しいモノ好き。音楽ファンによくみられる性質だが、実はこの言葉、どこで区切るかによって 意味がまるで異なってくる。「”新しいモノ”好き」なのか、「新しい”モノ好き”」なのか。 ま、後者のようにゆがんだ解釈をする人はちょっとフツーじゃないという気もするが、新しいモノ というのは常にそれまでの常識や基準からすれば”フツーじゃない”と感じられるものでもあるはず なのだから、ま、いいか。
 さっそく何を言っているんだかわからなくなってきたぞ。僕が本来言いたかったのは「新しいモノ がいちばん刺激的とは限らないが本当に刺激的なモノは”新鮮さ”を失うことがない」ということ。 「新しさ」というのが、モノゴトの価値観を決めるうえでいつも重要なファクターであることは否定 しようもないが、逆に、「新しさ」以外に取り柄のないようなモノは決して刺激的ではあり得ない、 ということだ。
 で、BAD SiX BABiESの第2弾マキシ・シングルの登場である。コレがメチャクチャ刺激的なので ある。「GENERATION A」、「LUCY RED」、「SPiKiE CALL GiRL」の全3曲。どれもすでにライブに 通いつめているファンたちの耳にはすっかり馴染み「早く音源として発表を!」との期待感が 募っていたはずのナンバーばかり。しかも彼ら特有の”疾走癖(失踪癖ではない)”ばかりが反映 されているわけじゃなく、3曲全体を通じて、山あり谷ありの大きな起伏が描かれている。まるで 走行時間8分ちょっとのジェットコースター、とでもいった趣である。
 もう今さらこのバンドの成り立ちやメンバーそれぞれの前歴について触れる必要もないだろうが、 念のために最低限度の事務的説明をしておくと、BAD SiX BABiESは高木フトシ(vo)、石井ヒトシ(g)、 戸城憲夫(b)、新美俊弘(ds)の4人組。2000年8月、彼らはこの顔ぶれによるセッション活動を開始。 4人が顔を合わせたその日から曲作りに取り組むという足取りの軽さをもって、たちまち数曲の オリジナルを完成させている。実は今回収録されている「LUCY RED」も、そうしたごく初期の段階に 産み落とされていた楽曲だ。
 その後、10月5日にはイベントへの参加ながら新宿ロフトにて初ライブを敢行。そして11月には 『DEAD WIRE SONGS』と題されたマキシ・シングルをUPSET LABELからリリース。いわゆる インディーズ、というよりは完全に”自主制作”である。制作費はすべて自腹。アマチュアのフリを して実はちゃっかり事務所に所属していたりするヤツらと違って、本当に何の後ろ盾もない彼らは、 同作を通信販売するにあたって、その宛名書きを自分たちの手でこなしている。決して勤勉でも マメで謙虚とは言い難いはずの彼らがそこまでセルフ・メイドにこだわったのは、戸城に言わせりゃ 「だって誰もやってくんねえんだもん。しょ〜がねえじゃん」ということになるのだろうが、 言うまでもなく、彼ら自身がこの等身大の作品を、余分なフィルターを通すこともなく、舌なめずる 者たちに届けたかったからに他ならないだろう。
 結果、『DEAD WIRE SONGS』は世の中のヒット・チャートとは無関係のところで嵐を起こし、さらに 勢いづいた彼らは『ロッキンf』誌の付録CDというカタチで次なる音源「BLACK CAT BABiES」を 発表。そして去る2月3日には、既発表曲がたった4曲しかない状況のまま初のワンマン・ギグを行い、 新宿ロフトを見事にソールドアウトにしている。そんな加速度の増す流れを経てリリースを迎えた 今作『GENERATION A』だけに、なかには「きっとメジャー契約が決まって、プレ・デビュー作として インディーズ名義で発表したに違いない」とか、「実はカゲで大物プロデューサーが指揮を執って いるんだろう」とか、腐ったギョーカイ人めいたモノの見方をする人もいるのだろう。が、ハッキリ 言って製作環境は何ら変わっていない。今回も、純然たる”自主制作”である。もっとハッキリ 言ってしまうと、今のところ彼らの前に札束を積んだレコード会社は皆無である、ということだ。 まったくわかっていないよな。しかし、わかってないヤツらに指図されたり束縛されたりするくらい なら、自分のケツは自分で拭きつつ好き放題やったほうがどれだけキモチいいか・・・。彼らは それを知っているのだ。
 BAD SiX BABiESの音楽は、決して時代の先端がどこにあるかを探るような、最新フォーミュラに 則ったものじゃない。が、間違いなく”今”の音がここにある。それを普遍的なもの、ロック史を 踏まえて再構築したものと感じるなら、それは悪くない。なにしろ「新しさ」以外に何の説得力も ないハリボテのロックなんて、カラダもココロも喜ぶはずがないのだから。それより今、この瞬間 にいちばん刺激的だと感じるものを、僕らの言語として「新しい」と表現したい。そう、 これこそが、今、いちばん新しいロックなのだ。
 というわけで、結局のところ、この僕もやはり「新しいモノ好き」なのである。単に「モノ好き」 じゃないかって?だったらそれでも構わない。この音で快楽を味わう「モノ好き」たちが、もっとも 世に氾濫することをココロの底から願う。


text:増田勇一[2001年3月2日]







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